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かあさん今僕いまぼくおもっています
ぼく故郷ふるさとなんかなくなってしまったんじゃないかと
そしてひとつのこっている故郷ふるさとがあるとすれば
かあさんそれはあなた自身じしんです
あなたはなにからなにまで故郷ふるさとそのものです
いまこうしてしずかにじていると
かあさんあなたのこえこえてくるんです
あなたのこえこえてくるんです

いまこえるあのおふくろのこえ
ぼく人生じんせいおしえてくれたやさしいおふくろ

「コラッ!哲也てつや!なにしとんのこのは!はよ学校行がっこういき。
テレーッとして。お前近所まえきんじょひと何言なにいわれてんのかってんの?
そんなんやからなぁ、ミドリ美容室びようしつところ息子むすこさん、
ソウルミュージックぐるいのバカ息子むすこってうわさされんねん。
はぁ~、なにでこんなデキのわる息子むすこが…
ほんまかあちゃんなさけないわ…なさけない…
あのミナミのディスコでおとんとってなぁ…」
とうちゃん?」
「ああ そや」
とうちゃんのこと?」
うてへんかったかなぁ、アンタのおとんはなぁ」
なに?」
「“JBジェービー”や」
「ええ~!?」
「“JBジェービー”や」
「じぇっ…ジェームス・ブラウン!?」
なにが?」
とうちゃんがジェームス・ブラウンだって!?」
なにが?“JBジェービー”や、うてるやろ」
「いや、だからおれのおとうちゃんが
ジェームス・ブラウンだってことでしょ?」
何言なにいうてるのこのは、
まえのおとんはな“JBジェービー”やうてんねん」
「…。」
「びっくりした?」
「…うん まあびっくりした」
「でな、おとんおまえまれたときな
ホントによろこんではってなぁ、
丁度新ちょうどあたらしい曲出きょくだすからうて
まえへのなぁいとしいおもいをなぁ
新曲しんきょくの“PVピーブイ”にめはった、そううてはったわ」
PVピーブイって?PVピーブイって プロモーションビデオ?」
なにが?」
「プロモーションビデオでしょ?」
なにが?」
「いや、だから ジェームス・ブラウンの
プロモーションビデオってことだよね?」
「“PVピーブイ”やうてるやろ!“PVピーブイ”はPVピーブイ”や!
JBジェービー”の“PVピーブイ”やうてるやろ。」
「…。」
「…びっくりした?」
「…まぁまぁ ビックリした」
「でな、おまえのおとんその新曲しんきょくひっさげてな、
ミナミのディスコで“DJディージェイ”ぶちかますうてはったわ」
「えっ!“DJディージェイ”ぶちかます!?。」
「“DJディージェイ”な。」
とうちゃん、とうちゃん歌手かしゅだけじゃなくで“DJディージェイ”もやってたの?」
「ちゃうやろ、テツ!おまえDJディージェイ”がなんりゃくかいっかいうてみい?」
「えっ、あ、あぁ、そうだね…でぃ…」
「あ?」
「でぃは、ディスク…えーっと、じぇい…」
「あ?」
「じぇいは、えーっと…」
「もうええわ!」
「あぁ、じぇい…」
「もうええ!」
「なんだっけ、えーっと…」
「もう時間切じかんぎれや!」
「えーっと…」
「おまえなんかなぁ、時間切じかんぎれや!」

いまこえる あのおふくろのこえ
ぼく人生じんせいおしえてくれた やさしいおふくろ

「テツ!」
「はい…。」
「やっぱなぁ、あんたうたわなあかん運命うんめいや、うたわなあかんねん。」
「いや、将来しょうらいこと自分じぶんなりにかんがえて…。」
うたえ!」
「いや、勿論もちろんきらいじゃないし…。」
うたえ!」
「…おれ人生じんせいだから…。」
「いやうたうねん!その人生じんせいはなあ。
うたささげるんや!人様ひとさまにな、ゆめあたえんねや!
だっておまえのとうちゃんなあ“JBジェービー”なんや!」
「いや、だからその大事だいじなところがまだ消化しょうかしき…。」
「な!うたえ!」
「いや、でもでも…」
安定あんていした仕事しごとなんかせんでもええ。
そんなんかあちゃんのぞんでへんねん最初さいしょから。」
「うーん…。」
「そのわりなあ、うたえよ、テツ!」
「オォ…。」
うたって!」
「オォ…。」
うたって!」
「オォイ…。」
うたつづけて!」
「#%@」
あそびたいとかおまえなぁ、やすみたいとか、
そんなんいっぺんでもおもてみいおまえ!」
「…。」
「そんなんやったらなあ!」
「…。」
「そんなんやったらなあ!お前死まえしね!」
「#☆」
「それが人間にんげんや!それが!おとこや!おまえもなあ、
大阪捨おおさかすててはな都東京みやことうきょうくんやったらなあ!
かがや日本にっぽんほしになってかえってこい!」

いまこえるあのおふくろのこえ
ぼく人生じんせいおしえてくれた
いまこえるあのおふくろのこえ
ぼく人生じんせいおしえてくれたやさしいおふくろ