静しずまりかえるオフィスにあの人ひとと二人ふたり 白しろいシャツの背中せなかぼんやり見みつめる
身体からだを逸そらし大おおきな伸のびをした時ときは あなたがタバコを吸すいに行いく前まえの“合図あいず”

待まってたかのように 私わたしも席せきを立たち上あがり
偶然装ぐうぜんよそおい あなたの元もとへ向むかう

もう そう容易たやすく抑おさえきれないの ダメなの 私わたしの飢うえたこのカラダは 熱ねつを増ましてく
甘あまい吐息といきまじらせ耳元みみもとでささやいた 「今夜こんや、私わたしと二人ふたりっきりでどう…?」

待まち合あわせは憧あこがれの噴水ふんすいの前まえで 夜よるの街まちへ向むかう二人ふたりはまるで恋人こいびと

けれども前まえから 邪魔者じゃまものの上司じょうしがやって来きて
私わたしがのぞんだ 夜よるとあなたはさらわれる

もう そう容易たやすく抜ぬけ出だせないこの状況じょうきょうに マスカラに乗のせた想おもいは崩くずされる
でもあなたのあの“合図あいず”を見逃みのがさなかった 今度こんどは私わたしが先さきに席せきを立たつ

妄想もうそうは夜よるの8時じ

毛頭もうとう 引ひき返かえす気きなんてない

妄想もうそうは夜よるの8時じ

あなたとの距離きょりは近ちかくなっていた

妄想もうそうは夜よるの8時じ

何なにか言いいかけた 口くちをふさぐように

妄想もうそうは夜よるの8時じ

私わたしは急いそいであなたにキス…

もう そう どうにでもなれと願ねがった私わたしの手てを あなたは強つよく握にぎり締しめて私わたしを連つれ去さる

東京とうきょうタワーのネオンに見守みまもられながら 今夜こんやあなたとどこまででも
二人ふたりは夜よるの街まちへと消きえる

静しずまり返かえるオフィスであの人ひとと二人ふたり 時計とけいの針はりはもう9時過じすぎを指さしていた
赤あかく染そめる私わたしの目めに入はいって来くるのは
いつもと同おなじ “私わたしだけのあの合図あいず”