貴方あなたを愛あいしたこの口脣くちびるが
零こぼしつづけた言葉ことばの{欠片
つめ}たい耳かけら{冷みみはその心こころまで
届とどけることさえ出来できないの?

夜よるの漣さざなみ 揺ゆれる木葉このはに
浮うかべた血ちの文字もじしたためれば
真赤まっかな小ちいさな愛いとおしい実みを
孕はらんで育そだてていけますか

天てんが闇やみに抱だかれる逢魔ヶ刻おうまがとき
ふたりは出逢であった
黄金おうごんの雲くもを裂さき
稲妻いなずまは高たからかに

天鵞絨ビロードの帳とばりのなか包つつまれた
物語ものがたりは幕まくを開あけて
終おわりのない御伽話おとぎばなしはないこと
知しっているけど

誰だれにも聞きかせることなく
この胸むねにだけ刻きざんでください

明日あすの夢ゆめなど忌いまわしいだけ
留とどまる場処ばしょはただ今いまでいい
逢あえぬ貴方あなたは死しびとも同おなじ
触ふれ得える時ときだけ真実しんじつでしょ?

天てんが地上ちじょうに傾かたむく逢魔ヶ刻おうまがとき
ふたりは生うまれた
黒くろい星ほしの冠かんむり
絹きぬの髪散かみちらばって

堕おちるところまで堕おちた恋人達こいびとたちが
受うける愛あいの責せめ苦くに
すべてを焦こがして朽くち果はてることも
厭いとわないけれど

確たしかにふたり生いきた証あかし
重かさねる身みに残のこしてください

天てんが闇やみに抱だかれて崩くずれる刻とき
わたしは葬ほうむる
砕くだけた月つきの鏡かがみ
記憶きおくを繋つなぎ合あわせ

天鵞絨ビロードの帳とばりのなかに帰かえった
物語ものがたりに鍵かぎをかけて
忘わすれられる御伽話おとぎばなしはないこと
知しっているから

誰だれにも聞きかせることなく
この胸むねにだけ 刻きざんでいくだけ