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或ある夏なつ、影かげを伸のばすような夕暮ゆうぐれ
カラスが鳥居とりいの上うえで聞きいた噂うわさ
耳打みみうつ子供こどもの声こえ 夏祭なつまつり、揺ゆラリ。
裏山うらやまの小道こみち、トンネルの向むこうに
ポツリと古ふるび眠ねむる屋敷やしきがあって
首吊くびつった少女しょうじょの霊れいが夜よな夜よな出でるそうだ
好奇心こうきしんで立たち入いる人達ひとたち
「言いっただろ、出でるはずない」と
軋きしむ階段かいだん 揺ゆれる懐中電灯かいちゅうでんとう
誰だれも気付きづいてはくれないや
「私あたし、死しんでなんかない。」って
暗くらがりに浸つかって
そっと強つよがって澄すましても
過すごした日々ひびと共ともに
止とまった針はりは埃被ほこりかぶって
また声枯こえからして今日きょうが終おわって
明日あすが窓まどに映うつり込こんでも
私わたしは此処ここにいます。
季節きせつを束たばねた虫むしの聲こえ 夕立ゆうだち
流ながれた灯篭とうろう 神様かみさまの悪戯いたずらのよう
迷まよい込こんできた灰色猫はいいろねこ
「あなたも私わたしが見みえないの?」
背せを撫なでようとした右手みぎては虚むなしく
するり抜ぬけ、空くうを掻かいた
「私あたし、死しんでいたのかな」って
膝ひざを抱かかえて 過去かこの糸いとを手繰たぐっても
些細ささいな辛つらいことや家族かぞくの顔かおも思おもい出だせなくて
遠とおくで灯ともりだす家並いえなみの明あかりや
咲さいた打うち上あげ花火はなびを
眺ながめ、今いまを誤魔化ごまかす
夏なつの終おわり 過すぎ去さった
子供こどもたちの噂うわさも薄うすれ
漂ただよっては薫かおる線香せんこうの煙けむりと一緒いっしょに
姿すがたは透すけ、やがて消きえゆく
私わたしはただの一夏ひとなつの噂うわさだった
六月始ろくがつはじめに生うまれ
八月終はちがつおわりに遠退とおのいた
意識いしきは影法師かげぼうしになった
誰だれも見みつけてはくれなかったけれど
記憶きおくの片隅かたすみにある、かつての淡あわい日々ひびの
一部いちぶとなって残のこり続つづける
もう切きらした向日葵ひまわりの歌うた
蝉せみしぐれも亡なき
夏なつの匂においだけ残のこる屋敷やしきに
少女しょうじょはもういないだろう
カラスが鳥居とりいの上うえで聞きいた噂うわさ
耳打みみうつ子供こどもの声こえ 夏祭なつまつり、揺ゆラリ。
裏山うらやまの小道こみち、トンネルの向むこうに
ポツリと古ふるび眠ねむる屋敷やしきがあって
首吊くびつった少女しょうじょの霊れいが夜よな夜よな出でるそうだ
好奇心こうきしんで立たち入いる人達ひとたち
「言いっただろ、出でるはずない」と
軋きしむ階段かいだん 揺ゆれる懐中電灯かいちゅうでんとう
誰だれも気付きづいてはくれないや
「私あたし、死しんでなんかない。」って
暗くらがりに浸つかって
そっと強つよがって澄すましても
過すごした日々ひびと共ともに
止とまった針はりは埃被ほこりかぶって
また声枯こえからして今日きょうが終おわって
明日あすが窓まどに映うつり込こんでも
私わたしは此処ここにいます。
季節きせつを束たばねた虫むしの聲こえ 夕立ゆうだち
流ながれた灯篭とうろう 神様かみさまの悪戯いたずらのよう
迷まよい込こんできた灰色猫はいいろねこ
「あなたも私わたしが見みえないの?」
背せを撫なでようとした右手みぎては虚むなしく
するり抜ぬけ、空くうを掻かいた
「私あたし、死しんでいたのかな」って
膝ひざを抱かかえて 過去かこの糸いとを手繰たぐっても
些細ささいな辛つらいことや家族かぞくの顔かおも思おもい出だせなくて
遠とおくで灯ともりだす家並いえなみの明あかりや
咲さいた打うち上あげ花火はなびを
眺ながめ、今いまを誤魔化ごまかす
夏なつの終おわり 過すぎ去さった
子供こどもたちの噂うわさも薄うすれ
漂ただよっては薫かおる線香せんこうの煙けむりと一緒いっしょに
姿すがたは透すけ、やがて消きえゆく
私わたしはただの一夏ひとなつの噂うわさだった
六月始ろくがつはじめに生うまれ
八月終はちがつおわりに遠退とおのいた
意識いしきは影法師かげぼうしになった
誰だれも見みつけてはくれなかったけれど
記憶きおくの片隅かたすみにある、かつての淡あわい日々ひびの
一部いちぶとなって残のこり続つづける
もう切きらした向日葵ひまわりの歌うた
蝉せみしぐれも亡なき
夏なつの匂においだけ残のこる屋敷やしきに
少女しょうじょはもういないだろう