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とおむかしゆき時分じぶん
箱入はこいりのひめひそやかに逢瀬おうせかさねていた
おとこ市井しせい若人わこうど ゆるされぬあい
嗚呼ああ何故なにゆええてゆくのか

いまみやび羽織はおりさえもまわしい」
ひめ

今宵こよいつきともげてしまおう」
おとこはいざ、その
ゆき
もれど もれども
そのかげ闇夜やみよふかまるばかり

あさ宮人みやひとさまれば
おとこふるえる力込ちからこかたなるっていた
嗚呼ああ覆水ふくすいぼんかえることはない
ゆきあいのよう

あいつみとがくびにきつくつらいの」
ひめ

此処ここまるわけにはゆかぬ」
おとこはまた、その
行先ゆくさきなどれず
あるけど あるけども
そのとき無情むじょうちかづくばかり

一目見ひとめみ時決とききまったさだめでしょう」
朝霧あさぎりみが
はこなかでは人生いのちなどなかったの
もう一層いっそう かまわずに
そなたとともにどこまでもきましょう
ゆきみちを」

らば永遠とわ場所ばしょともにゆこう」
ひめうれそらあお
まよいがえたように
からりとれゆく

「さらば、永遠とわ場所ばしょでまたえよう」
おとこはいざ、かたな
ふるわぬ涙拭なみだぬぐ
微笑ほほえたたえたひめむね
かたなふかふかてた 嗚呼ああ!