ある日小ひちいさな村むらに旅たびする吟遊詩人きんゆうしじんが訪おとずれた
まだ若わかい少女しょうじょで旅たびも慣なれてなかったけど 歌うたには自信じしんがある

少女しょうじょは村むらの中央ちゅうおうにある広場ひろばに座すわりリュートを弾ひき唄うたい始はじめた
でも誰だれひとり出でてこなかった 聞きこえていないのか

悩なやんだ末すえに出でてこないなら無理矢理むりやりでも聞きこえるようにと
雷鳴らいめいのように叫さけび唱うたった それがみんなの心こころを震ふるわせた

出でてきた村人むらびとたちはみんな不気味ぶきみな形かたちをしてた
少すこし恐こわかったけどやがて打うち解とけてた 歌うたを唄うたうたびに

「こんなわたしたちを見みても逃にげないとは大たいしたもんだ」
そう言いう杖つえつくお爺じいさんが村長そんちょうだった 事情じじょうを聞きいてみた

昔愚むかしおろかな青年せいねんが居いて国王こくおうの娘むすめと恋こいをした
ふたりで駆かけ落おちを企くわだてたけど その途中とちゅうで捕つかまってしまった

国王こくおうは冷つめたく言いい放はなった
「こいつとその子孫しそんにまで及およぶ異形いぎょうの呪のろいをかけて野のに捨すてろと」

ある日ひみんなが言いってくれた
「あなたの歌うたには不思議ふしぎな力ちからがある
曲まがってた骨ほねもこんな真まっ直すぐに もうすぐ治なおりそうだ」

毎日まいにちこうしてこの村むらで歌うたを聴きかせてあげれれば
呪のろいも解とける日ひが来くる、そう思おもい始はじめてた なんの迷まよいもなく

だけどその噂うわさが広ひろまり騎士きしが馬うまに乗のりやってきて
少女しょうじょを連つれ去さって城しろの深ふかい牢獄ろうごくに閉とじこめた

国王こくおうが現あらわれ「その力ちからは私わたしのために使つかえ」と言いう
そんなのお断ことわりだ!
「ならそこで一生過いっしょうすごすといい」と告つげ立たち去さった

泣ないてなんかいられない ここからでも歌うたを唄うたおう
あの時ときも届とどいた さあ始はじめよう《終おわりのない歌うた》を

長ながい長ながい時ときが過すぎた 村むらにもまた春はるが訪おとずれ
子供こどもたちは輪わになり伝承でんしょうの歌うたを謡うたう 旅人たびびとが残のこした

少女しょうじょはまだ旅たびをしてた もちろん大好だいすきな歌うたを唄うたい
神様かみさま 叶かなうのならあの村むらでもう一度いちどみんなに会あいたい
もうこの世よにあたしはいないけれど