「潜水艦トロイメライ」の歌詞 トーマ

深度しんど、段違だんちがいに潜もぐりきった地図ちずにない底そこに
コーデュロイの海月くらげ、無色透明むしょくとうめいの寄生魚きせいぎょ
気体きたいバルーン纏まとった潜水艦せんすいかん、進すすめ
サーチライト照てらせ照てらせ 岩窟がんくつの深奥層しんおうそう

昼ひるも夜よるも鉄てつの中なかの闇夜やみよ パイプ管かんの振動しんどう
唯一ゆいいつの手記しゅきだけを頼たよりに沈しずもう
使つかい古ふるされた合図あいずなんて必要ひつようない
重油じゅうゆの匂においに塗まみれ降下こうかを乱みだすな

水圧すいあつも静寂せいじゃくも目下もっかアンダーゴウ
さあ文明ぶんめいに隠かくされた真実論争しんじつろんそう
眼前がんぜんの浩々こうこうたる海底都市かいていとしを…

そこに愛あいはあった?誓ちかいはあった?
どこかで報むくわれた?
日照ひでりも、夜空よぞらも、生命いのちも、
吸すい取とられた歴史れきしの傷跡きずあと
明日あしたがあって、家庭かていがあって、未来みらいに包つつまれて
もうそんな音おともすっかり止やんだ
水みずで満みちても、深ふかい水底みなぞこで虹にじは架かからないの

栄光えいこうの対価たいか 禁制文明きんせいぶんめい 落下らっか
行いき過すぎた動力源どうりょくげんの濫用らんよう 暴走脱法ぼうそうだっぽう
幻想げんそうの買かい手て 権力者逃けんりょくしゃにげ去さって
黒くろい塊かたまりは空白くうはくに成なり済すました

幸しあわせそうなネガフィルムの目め
指輪ゆびわと髪飾かみかざり 安息あんそくの地ち
終幕しゅうまくを綴つづったタイプライター
鳴ならなくなった枯淡こたんの鐘かね

蒙昧もうまいな生活せいかつも紺碧こんぺきに染そまった
潜望鏡せんぼうきょうで見みやった生態せいたいの退化たいか
人ひとは何処どこへ行いってしまったのだろう

「帰かえりを待まったどんな言葉ことばも
母ははも子こも夢ゆめも、愛あいの蜃気楼しんきろう
明日あしたを見みせてと祈いのりました」
朽くちた木きの壁かべに彫ほり刻きざまれた
諦あきらめきれない最後さいごの叫さけび
「向むこうで先さきに待まっています」

でも命いのちはあった
崩くずれた街まちは眩まぶしく包つつまれた
瓦礫がれきや緑みどりの家いえから
夜光虫やこうちゅうたちが溢あふれて弾はじけた
儚はかなく散ちった 麗うららかだった
すべてを確たしかめた
想像そうぞうを超こえた、時代じだいを超こえた
幾万里深いくばんりふかい底そこに残のこされた想おもいは
仄ほのかな声こえを上あげた
そして、また、長ながく眠ねむってしまう

栄光えいこうの対価たいか 禁制文明きんせいぶんえい 落下らっか
行いき過すぎた動力源どうりょくげんの濫用らんよう 暴走説法ぼうそうせっぽう
幻想げんそうの買かい手て 権力者逃けんりょくしゃにげ去さって
黒くろい塊かたまりは空白くうはくに成なり済すました

海面かいめんに帰かえった潜水艦せんすいかんは嘆なげいた
消けされた文明ぶんめいは確たしかにそこに在あった
始はじまりのようで終おわるような海うみだ
そして誰だれからも愛あいされなくなった街まちだ